受賞の言葉(2021年度・学科賞)|平井菜々恋
平井菜々恋(Hirai nanako)
この度は「imd学科賞」に選出していただきありがとうございました。
本作品は、人間の顔が完全に左右対称であることで、見た人に不気味さを感じさせることを目的としたインスタレーション作品です。
映画「エスター」のポスターを見たことから顔の左右対称性に興味を持ち、そして「不気味の谷」という言葉に出会ったことでこの作品が生まれました。
とにかく手を動かす、ということでゼミでは様々な方法で顔を編集し、作間先生や研究室のメンバーに毎週沢山の顔を見てもらいました。編集しながら、これ面白いかも、とおもったことが、ゼミ内でも面白がってもらえたり、はたまた予想外の反応で新しい発見があったりと、とても刺激をもらいました。また、作間先生から様々な角度からの意見や幅広い知見をいただいたことで、テーマをより深めていくことができたと思います。
自分でおもしろいと思える作品をつくれたことと、それを学科賞という形で評価していただけたことがとても嬉しいです。
ここでの経験を活かして、春からは社会人として精進していこうと思います。
最後に、指導教員の作間先生、作品制作に協力してくれた研究室のメンバー、そして私の作品を鑑賞してくださった全ての皆さんに深く感謝いたします。
平井菜々恋|顔の左右対称性に関する研究と制作 / 峡谷
imd学科賞 2021年度
作間敏宏
平井さん、学科賞おめでとうございます。
自分自身のこととして〈左利き〉のユーザビリティに関心があった、というのが平井さんのスタートでしたね。そこから〈右と左〉についての思索へむかい、さらに〈鏡映〉=造形的シンメトリーの考察につなげながら積み上げたものが、映画ポスターの《顔》をトリガーにスパークすることになりました。
積み上げだけで強い作品は生まれませんが、スパークには積み上げが必要です。この充電と放電を経て一段高みに立った平井さんの視界に新たにあらわれた〈不気味の谷〉についての考察が、さらにこの作品を研いでいったと感じます。
スーザン・ソンタグはその『写真論』で、「写真はすべて死を連想させるものである」と言いました。平井さんが毎週のゼミで見せてくれるおびただしい数の〈対称顔〉を愉しみながら、僕はその一文をときどき思い出していました──この世に存在しえない完全な〈対称顔〉には、写真じたいにはじめから織り込まれていた“死を連想させるもの”にスイッチを入れ、われわれをこの世ならざるイメージへと向かわせる力があって、それがこの作品の〈不気味の谷〉の正体なのではないか──。
もちろん若い平井さんがそうしたレシピをはじめから狙っていたのではないでしょう。無数の〈対称顔〉の編集と加工から、平井さんが動かされたものを掬いとる作業の上澄みに、識らずにその力が宿ったということだと思います。上の僕の読みは一例にすぎませんが、この作品が結果として読みとりの多様性を身につけたのは、自分の広範な好奇心に忠実だったその制作過程によるものだったと思えます。これからも頑張ってください。
平井菜々恋|顔の左右対称性に関する研究と制作 / 峡谷
imd学科賞 2021年度