受賞の言葉(2021年度・学科賞)|寺田有希
寺田有希(Terada Yuki)
この度は、学科賞に選定していただきありがとうございます。
今回このような賞を頂けたのは、アイデアの相談や展示の協力をしていただいた研究室のメンバーと、作品の評価をしてくださった体験者のみなさん、そして研究の方向性の検討や私のアイデアの評価などのサポートしてくださった中川先生のお陰だと思っています。ご協力いただきありがとうございました。
私は、2つの目的意識をもって本研究を行いました。1つ目は、自己ではない存在や身体から離れた物に身体所有感を感じるか、という問いに取り組む知覚心理学研究としての目的。2つ目は、今まで触れたことがないような面白い体験を作り、体験者を楽しませたいという目的です。「作品を人に楽しんでもらうこと」が私の制作を行う上での原動力でもあるため、新規性の獲得や現状の課題への取り組みをしながら、どれだけユニークで面白いと思ってもらえるような体験を実現できるのかを、中川先生と議論を交わしながら突き詰めていきました。制作ブリーフィングや卒展で体験者に楽しんでいただいたことが、この学科賞に繋がっていたとしたら幸せです。
中川隆
寺田君は自己の在り様や身体所有感について“憑依”をキーワードに展開させ、自己と他者の境界を跨ぐようなユニークなVR憑依体験を完成させました。この体験はヘッドセットを装着することで半ば強制的に“他者になる”というものではなく、身体を所有していると感じられるある意味自然な状況から身体の一部(指)のみを他者へ憑依させることが可能な構造になっています。この構造を採用することによって、寺田君は、T.ネーゲルが示す“他者に自己を内在し得ない”という観点を前提にしながら他者と一体化し他者の感覚に迫ることが可能になるのではないかと考え、制作に挑みました。
制作の途上、寺田君はどうやったら他の人に作品を楽しんでもらえるだろうか?というエンターテイナー的なこだわりを常に持っており、卒研ゼミではそういったスタンスを踏まえた実装案について具体的にわかり易く提示してくれたので議論が進みとてもクリエイティブな場が生まれていたように思います。そういった寺田君の研究制作に対しての直向きな努力、かつ、人を楽しませたいと思うこだわりが、最終的にはM・シカールの提唱するような“遊び心”に富んだ人間理解および他者理解に繋がるとてもユニークな憑依体験を生み出したのだと思います。今後の活躍を心より楽しみにしています。