受賞の言葉(2019年度・学科賞)|宇佐美日苗

宇佐美日苗(Usami Hinae)

この度は、学科賞を頂戴し光栄に思います。
卒業研究・制作は、担当教員である小鷹先生の助言なしには完成させることができませんでした。
小鷹先生とのディスカッションでは、私にはない新しいアイデアを与えてくださり、その過程が非常に楽しくて得難い時間でした。
こうした先生方との時間は、本研究・制作のみならず、4年間における大学生生活の中で非常に有意義な経験であり、これらから得た知識やアイデアは最大の収穫だと考えています。
4月からは、社会人として働きますが、大学生活で得たことを生かしていきたいです。
ありがとうございました。


宇佐美日苗|紙媒体におけるメタフィクション構造の展開に関する研究 / 制作
imd学科賞 2019年度

小鷹研理

宇佐美さんの作品は、展示空間としては、紙と文字と空間の3つの要素から成り立っている。センサーはない。でも、これはインタラクティブな作品である。コンピュータは使われていない。電源ですらも遠ざけられている。それでも、これは歴としたメディアアートである。

宇佐美さんは、大学三年までの実習を通して、紙を器用に使って小気味の良いブックレットを作ってくる学生、、そういうイメージを持っていた。その中で、彼女自身が選びとってきた言葉やイメージの配列にキラリと光るものを感じることはあった。ただ、(そうした見所のある学生のほとんどがそうであるように)出来合いのグラフィックの中に閉じ込められている、という印象もまた拭えなかった。だから、宇佐美さんが急遽、僕の研究室に来るということになったとき、まずもって、彼女のこれまでの確かな実践を足がかりとしつつも、ブックレットの外側へとはみ出すような、読み手の側の生の空間をくすぐるような表現を一緒に考えたいと思った。もう少し「やばい」ことをやろうよ、そう誘ってみた。

というような経緯は、後になって、(部分的には)とってつけた話であるかもしれないけれど、、結果的に卒業研究で扱うこととなった「メタフィクション」というテーマは、宇佐美さん自身を無自覚に閉じ込めていたフィクションをいかにして乗り越えるか、という彼女自身の個人的課題と呼応するものとなったように思う。そうして作られた制作群である「あなたは今、しています」は、このような質素な形態の作品としてはかなり異例なことに、他の秀逸な2つの作品と並んで、情報環境デザイン学科の学科賞に選ばれることとなった(そうして、わたしは今、これを書いている)。

「あなたは今、しています」において、極限まで削ぎ落とされた文字列は、鑑賞者を行為者へと仕立て上げ、いつしか「あなた」はその言葉の中に飲み込まれていく。その過程で散発的に発生した「行為の感覚」は、文字に記された物理的な手続きの結果、変形されゆく紙として具現化され、最終的には行為者の手から離れ、一定の物理空間を着々と占有していく。つまるところ、「あなたは今、しています」とは関数のことであり、その関数には、時間の経過とともに幾多もの「あなた」が代入され、その「あなた」と同じ量だけの「しています」が出力されていく。そのような計算空間として、「あなたは今、しています」は厳かに存在する。

しかし、なんにせよ、その「あなた」とは特定の筋骨格系を有する<物理>であり、扱われる紙は(それがいかに頼りない質感であれ)厚みと重さを持つ<物理>である。そして、「あなたは今、しています」の装置を通じて前景化するのは、関数的な淀みのないオペレーションなどでは決してなく、むしろ、それらの物理的制約によって突如切断された、「あなた」の行為の余韻の側にある。不特定多数の「あなた」と呼びかけられたはずのあなたからは、あなた自身に宿る<物理>の感覚こそが呼び起こされることなるだろう。そして、その種の、各人に固有の物理的残滓だけが、(例えば)淀みのないオペレーションにかまけて、無限ループに陥ってしまったフリーズ状態(ビューティフル・ドリーマー)を解除することができるのである(「あなたは今、半分に折っています」)。

だから、この作品は、時に「幻聴」として病態化した言葉を、この物理世界において確かな痕跡として成仏させるための、儀礼の空間でもある。そして、この儀礼の空間を拵えたのは、まぎれもなく宇佐美さんという固有の<物理>である。僕にとって、この空間から宇佐美さんの手先が感じられることが、とてつもなく嬉しい。

宇佐美さん、学科賞、おめでとう。


宇佐美日苗|紙媒体におけるメタフィクション構造の展開に関する研究 / 制作
imd学科賞 2019年度


>> 概要(準備中)

>> 関連展示 [WEB]|「あなたは今、しています。」, 大名古屋電脳博覧会 2019, 2019.9.19-23

>> 関連映像 [VIMEO]|”あなたは今、紙を半分に折っています”


宇佐美日苗|紙媒体におけるメタフィクション構造の展開に関する研究 / 制作
imd学科賞 2019年度